今回は、城主の住まいだった「御殿」の魅力と楽しみ方を詳しくご紹介します。
お殿様はどこに住んでいたの? 天守かなぁ?
お城案内をしていると、こんな質問をよく受けます。
お殿様である城主は、お城の中心である「天守」で暮らしていると多くの方は思っているようです。
実際、私もお城をよく知るまでは、そう思い込んでいました。
お城のシンボルである天守で暮らしたのは、織田信長だけだったと言われています。
さすが時代の先駆者・信長です。
ほかの多くの城主は「御殿」という、主に書院造りの立派な屋敷に住んでいました。
そもそも「御殿」とは?
「御殿」は、城主の住まいです。
それと同時に、家臣との対面や政治を行う場所でもあり、お城の中で最も重要な部分です。
御殿は、大小さまざまな殿舎(でんしゃ)と呼ばれる建物によって構成されます。
殿舎の数は、中小規模の大名の御殿でも10から数10棟もの殿舎が、大大名になると100棟以上の殿舎が建てられました。
殿舎の内部は、襖や障子などの建具によって仕切られた部屋がいくつもあります。
それぞれの殿舎が廊下などでつながれて一体となり、御殿を形成していました。
御殿のつくり
御殿はその役割から、2つの部分で構成されていました。
1. 表(おもて/表向)
「表」は、城主の政治的な公邸です。
表御殿(玄関・広間・書院)・中奥・役所・台所などがあります。
中奥は、城主の日常の生活の場で、二条城の二の丸御殿では「白書院」が中奥に当たります。
ちなみに、二条城の二の丸御殿にあるのは「表」の部分だけで「奥」の部分はありません。
2. 奥(おく/奥向)
「奥」は、城主と家族の休息の場でありプライベートスペースです。
表の役人は基本的に出入りが禁止されていて、奥の中は御殿女中が取り仕切っていました。
御殿女中たちが暮らす「長局(ながつぼね)」は、奥御殿の最も奥にありました。
ちなみに「大奥」と呼ばれていたのは、江戸城と名古屋城の奥だけ。(一説では、和歌山城も含まれます)
ただし、ドラマで描かれるハーレムのような「大奥」のしくみが、江戸城以外にもあったかは疑問です。
「奥」の中で特別に「大奥」と呼ばれたエリアだったのかもしれません。
御殿の鑑賞で注目したい3つのポイント
御殿の特徴は、何と言っても部屋数の多さです。
その部屋は「用途」だけでなく「格式」の違いによって殿舎ごとにいくつもの部屋がつくられました。
それぞれの部屋には格式があるので、その内部はその格式にマッチした装飾で彩られます。
その装飾の違いを見比べるのが、御殿の魅力で面白さです!
御殿鑑賞で注目すべき「ポイント」をご紹介しましょう。
御殿を眺めるとき、特に注目したいポイントは3つあります。
- 障壁画(しょうへきが)
- 天井のつくり
- 欄間(らんま)の彫刻
これら3つのポイントに着目すると、この部屋が政治のための対面や儀式の所なのか、特別な方のための貴賓室なのか、リラックスするプライベート空間なのかがわかるでしょう。
また、基本的な構造は同じようなものですが、城主の家格があった江戸時代では、城主の違いによってその規模やきらびやかな豪華さに大きな差異が生じます。
「誰が城主だったのか」は、御殿を鑑賞する上で押さえておきたい基礎知識です。
世界遺産の二条城:二の丸御殿と、完全復元した名古屋城の本丸御殿を例に、御殿の魅力をご紹介しましょう。
1. 障壁画
「障壁画」とは、部屋の仕切りに使われている襖(ふすま)や衝立(ついたて)、床の間や飾り棚に描かれた絵のことです。
障壁画の画家として有名なのが「狩野派(かのうは)」と呼ばれる専門画家集団。
室町幕府の御用絵師だった狩野正信を祖とし、信長や秀吉の時代には「狩野永徳」が、江戸時代の初めには「狩野探幽」が有名でした。
彼らの描く障壁画は、まるで舞台装置のように御殿の空間を演出します。
二条城の二の丸御殿で最初に足を踏み入れる「遠侍(とおざむらい)」という来客者の待機場所では、当時では珍しい虎の絵が描かれていて、徳川幕府の圧倒的な権力を見せつけるかのようです。
待機場所にこんな絵があったら、驚いて震え上がったかもしれないわね。
そうですね。座って待つ人たちの目線に虎の顔が描かれていますので、ぜひ目線を下げて見てみましょう。より迫力を感じられますよ!
障壁画は、座った状態で眺めることを前提に描かれていますので、当時の絵師たちが理想とする高さで眺めて鑑賞するといいでしょう。
中奥エリアの「白書院(二条城)」や「黒木書院(名古屋城)」では、色数を抑えた柔らかな筆使いでリラックスした雰囲気の障壁画が描かれました。
この空間に自分が居たらどんな気持ちになるだろう?どんな印象を受けるだろう?
そんな風に想像すると、作者がどんな意図で描いたかのヒントを見つけられるかもしれません。
2. 天井のつくり
「天井」のつくりは、「格式」を重視した構造をしています。
なので、違いがとてもわかりやすいでしょう。
「中奥」や「奥」のプライベート空間は簡素ですが、公的な「表」エリアの天井は、その部屋の用途や利用する人物の「格式」の違いによって優劣をつけたようなつくりをしています。
その差別化したような違いが、あからさまで面白いのです。
描かれている絵も、構造の細やかさも部屋ごとに違っているのでとても楽しめます。
特に注目するポイントは、城主が謁見する最も格式の高い部屋の構造です。
そのスペースの畳は、ほかの部屋よりも一段高い構造をしています。
見上げてみると天井も一段高くなり、広々とした空間をつくり出します。
これは「折上天井(おりあげてんじょう)」というもので、格式の高い構造です。
二段階に高くなる「二重折上格天井(にじゅうおりあげごうてんじょう)」という、最上級の格式の天井構造が、二条城に現存していますので、ぜひこの目で見たいポイントです。
なぜ折上天井のような構造をつくるのかというと、天井が最も高くなっている真下に、城主や格式の高い人物が座るように考えられてつくられているためです。
もともと二重折上格天井は、寺院の仏像の上にも使われる特別な構造です。
神仏のためのしつらえを人間のためにつくったと考えると、どれほど別格なつくりかがわかるでしょう。
3. 欄間の彫刻
「欄間」とは、天井と鴨居の間の開口部分のこと。
この小さな空間でも、技巧を凝らした芸術作品をつくり上げる日本人の心意気に驚かされます。
二条城二の丸御殿の「大広間 三の間」の欄間は、厚さ35cmのヒノキの板を両側から加工して透し彫りにしています。
表裏2つの作品が彫られているにも関わらず、どちら側から見ても片側の絵に影響しない高い技術力に圧倒されることでしょう。
名古屋城本丸御殿の「上洛殿」の欄間は、鮮やかな色彩と細やかな彫刻が美しく、それはそれは見事なもの。
江戸時代に将軍の御成御殿(おなりごてん)として使われた、当時の様子を垣間見ることができる素晴らしい作品です。
4. その他の注目ポイント
釘隠し(くぎかくし)
「釘隠し」は、柱や扉などに打った釘の頭を隠すためにつけられた、金属製や木製の飾りです。
柱の上のほうにありますので、目線を上げて見てください。
上の画像の釘隠しは「六葉釘隠し」と言って、一般的な釘隠しの形状です。
御殿によっては、デザイン性の高い釘隠しが使われていたり、部屋の格式によって違ったものを使っているところもあります。
釘隠しは天守や櫓など、お城のほかの建物でも目にするパーツです。御殿とほかの建物で違いがあるのかを、ぜひ確認してみましょう。
襖の引き手
「襖の引き手」は、襖を開けるときに手をかける部分です。
この部分には、城主の家紋が使われていることがよくあります。
小さなものですが、細かな装飾にご注目ください。
現存する4つの御殿
徳川家のお城と、ほかの大名家の御殿つくりを見比べるのも、御殿の面白さです。
家格(家の格式)の違いによって、御殿の構造や装飾がどう違っているのかを比べてみるといいでしょう。
それを見比べるのに適しているのが、江戸時代から今に残る、現存する御殿です。
全国には、現存する御殿が4つあります。
- 川越城(埼玉県)の本丸御殿
- 高知城(高知県)の本丸御殿
- 掛川城(静岡県)の二の丸御殿
- 二条城(京都府)の二の丸御殿
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まとめ
- 御殿は、城主の住居であり、政治を行う城内で最も重要な場所
- 御殿は、表と奥の2つのエリアから構成される
- 御殿鑑賞は①障壁画②天井のつくり③欄間の彫刻に注目しよう
- 4つの現存する御殿がある
いかがでしたか?
御殿を見るときは、パンフレットや案内板などで、自分が今どの部屋にいるのかを確認しながら歩いてみましょう。
玄関からの距離や、部屋の用途によって広さや装飾がどう違うのか、細かなところまでチェックします。
そうすることで、単なる建物ではなく、部屋ごとにストーリーがあることが実感できるはずです。
現存のものだけでなく、再建した御殿もありますので、ぜひ足を運んでみてください!
御殿見学は建物の中なので、オールシーズンおすすめですよ。
では、また!