今回は、お城の防御とセキュリティーのしくみをご紹介します。
お城の中心的な建物である天守には、さまざまな防御の仕掛けが施されています。
その防御の工夫は、天守だけでなく、天守に到達するまでの門にも石垣にも、あの塀にも至る所にあるのです。
攻め手の足軽大将になった気分でお城を探索して、防御のしくみを見てみましょう。
狭間(さま)
「狭間」とは、攻めてくる敵を弓矢や鉄砲で攻撃するためにつくられた小さな穴です。
天守の壁面だけでなく、櫓や塀などにもたくさんつくられます。
一般的に、長方形の大きなものは弓矢の攻撃に使う「矢狭間(やざま)」、丸や三角・四角の小型のものは鉄砲用の「鉄砲狭間(てっぽうざま)」です。
丸・三角・四角とバランスよく配置された姿は、デザイン性が高く見た目も楽しめますが、狭間は、お城を守るうえで最も基本的で重要な軍事設備なのです。
城内で狭間を見つけたら、ぜひのぞいてみましょう。
狭間は、手前から奥に向かって口径が狭くなる「アガキ」という技法でつくられます。
これは敵の攻撃から身を守りながら、こちらからの視界を広くする工夫です。
親指と人差し指で小さな円をつくって覗いてみてください。
普通に見るよりその円から覗いた方が、焦点が絞られて視界がはっきり見えると実感できるはずです。
内側の開口部が広いので、弓矢や鉄砲を自由な角度に向けることができ、広い射撃範囲を確保できるという利点もあります。
天守に設置された狭間には蓋がついており、ふだんは蓋を閉めていました。
上の姫路城の画像のように、蓋を閉めていても狭間の在処がはっきりとわかるので、敵も警戒して近づかない抑止力があったのではないでしょうか。
彦根城(滋賀県)の天守には、姫路城のような狭間が一切ありません。
狭間とは違ったセキュリティ対策をしているのかと思ったら、なんと「隠し狭間」。
隠し狭間とは、薄い土壁で狭間の開口部をふさいで外壁と一体化させている狭間のことです。
敵が近づいたら内側から壁を突き破って攻撃するという、なんとも戦闘的な仕掛けをしています。
見た目は優美な彦根城ですが、内側から狭間を眺めると、お城を守り抜こうとする熱い闘志を感じることができるはず。
彦根城に行ったなら、ぜひ外と内の戦闘モードのギャップを体感してみましょう。
笠石銃眼(かさいしじゅうがん)
「笠石銃眼」は、鉄砲狭間の変化形の、石材を加工してつくられた鉄砲狭間のことです。
銃眼の加工は高度な技術力が必要なので、全国でも4つのお城にしか存在しないとても貴重な軍事設備。
その4つのお城とは、江戸城(東京都)・二条城(京都府)・大阪城(大阪府)・岡山城(岡山県)です。
どれも徳川幕府にゆかりのある名城ですね。
この4つのお城に行ったときには、ぜひ笠石銃眼を探してみてくださいね。
特に、大阪城の銃眼のつくりと規模は、それはそれは見事なもの。
現存する大手門から城内に入ろうと土橋を進んで行くと、大手門の両側にも、建物や塀の白壁と石垣の間には、等間隔に銃眼の穴がこちらを狙っています。
大手門をくぐると、国内最大級の枡形と二つの巨大が鏡石が出迎えます。
その枡形を取り囲む多聞櫓にももちろん銃眼は備えられていて、そこからさらに二の丸から本丸へ、そして天守まで向かう道々の石垣もすべてに規則正しく銃眼の眼が光っているのですから、それは圧巻の一言。
江戸時代にここを歩いた大名たちは、どれだけ冷や汗をかいたことでしょう。
石落(いしおとし)
狭間の次に代表的な天守の防御設備は「石落」です。
石落は、石垣の上の建物から床面を張り出した構造で、床の部分が細長く開いています。
石落の名前の通り、敵に対して石を落して防御する設備と言われますが、実は鉄砲狭間が石落の本当の役割。
つまり、石落しは狭間の変化形なのです。
石落は、鉄砲の銃身が入り、敵から侵入されない20cmほどの幅でつくられています。
開口部からは鉄砲を自由に操ることができ、狭間の死角をカバーできるという利点があるのです。
石落というと、天守や櫓など建物に付けられることが多い装備ですが、お城をぐるりと囲む塀の中にもつくられます。
死角をとことん無くして、なんとしてでもお城を守り切りたい熱い思いが伝わってくるようです。
石落の種類
石落は外観の形から、3つの種類に分類されます。
1つ目は、裾が広がったような形をした「袴腰型(はかまごしがた)」。
この石落が一番よく目にする形でしょう。
2つ目は、まるで雨戸を収納する戸袋のような形をした「戸袋型」。
そして、張り出した出窓の下を開口させて石落にした「出窓型」の3種類です。
死角の具合やスペースによって、同じお城でも違った種類の石落が採用されています。
どうしてこの場所は袴腰型ではなく戸袋型なのだろう? と考えながら歩いてみるのも面白いものです。
忍び返し(しのびがえし)
最後に、日本で唯一高知城の天守だけに現存する、貴重な防御設備をご紹介します。
それは「忍び返し」という、侵入者を防ぐ槍のように尖った鉄製の棒です。
忍び返しは現在でも侵入者対策として活用されていますが、高知城にはその原形のような仕掛けが完全な形で残っています。
まとめ
お城の防御のしくみ
- 狭間
- 笠石銃眼
- 石落
- 忍び返し
「お城に行ったら、攻める側になってお城を眺めてみよう」という言葉を耳にします。
それは、お城が攻撃の拠点ではなく、防御の拠点だからです。
守り抜くため、生き残るためにつくられたのがお城なのです。
防御の仕掛けを知ってお城を歩いてみると、きっと以前とは違った目線でお城を眺めることができるでしょう。
あなたなら、どんな仕掛けで守りますか?
では、また!