彦根城|台風21号の爪痕 多聞櫓の白壁はがれる

彦根城 多聞櫓
朝日新聞DIGITALより

「そんな! 嘘でしょう?!」
1分にも満たないニュースの映像に、私は釘付けになった。
石垣の上に建つ横長の建物。
そこにあるはずの白い壁は無残にもはがれ落ち、茶色い土の地肌を見せている。
かろうじて残る白漆喰も、今にも崩れ落ちそうで非常にあやうい状態だ。

確かに数日前から、季節はずれの台風に警戒するよう、テレビは盛んに叫んでいた。
超大型の台風21号が去った月曜日の朝には、山崩れの現場で救助活動をする自衛隊の様子や、住宅の地盤が崩れて建物の基礎がむき出しになった映像が繰り返し流されている。

そんな中で目にしたのが、滋賀県の彦根城の映像だ。
暴風雨の影響で、本丸にある多聞櫓(たもんやぐら)の白い漆喰の壁が大きくはがれた。
『国宝・彦根城天守の「多聞櫓」外壁はがれる』
まさに文字通りの、衝撃的なニュースが飛び込んできた。

多聞櫓とは

多聞櫓
右側の天守入口の案内がある建物が多聞櫓だ

多聞櫓は、天守と附櫓(つけやぐら)で連結されている建物で、彦根城天守と同じく国宝に指定されている。
その多聞櫓の、鉄砲や矢を放つ「狭間(さま)」を備えた北側の壁面が、甚大な被害を受けたのだ。

平和な時代の現在では、多聞櫓が天守内部を見学するときの入り口として使用されている。
文化財保護のためにも、建物に入るにはここで靴を脱いで中に入るのだ。
入り口という機能のせいなのか、国宝とはいえ多聞櫓の存在感は少し薄い気がする。
全国に5つしかない国宝天守を目指して先を急ぎ、多聞櫓を通過するだけの方が多いのはとても残念なことだ。

多聞櫓の役割

彦根城
かつてお城は、防御施設として機能するために、お城の設備はすべて緻密な計算のもとにつくられていた。
多聞櫓にも、この場所に建つ重要な役割と理由がある。
それは、彦根城の北側である黒門の方向を天守とともに守ることだ。
この方向は搦手(からめて)と言い、お城の裏口にあたる。
多聞櫓は、黒門から来る敵の真正面に位置しており、いくつもの狭間で敵兵の頭上から攻撃できる仕組みだ。

黒門から天守に向かって登り進むとき、最初に通過する小ぶりな門は「埋御門(うずみごもん)」だ。
埋御門は、人が2・3人並んで通れるくらいの幅の狭いつくりをしている。
その狭い門に殺到する敵を正面から狙い撃ちにできる場所に、多聞櫓は計算されて建っているのだ。
多聞櫓でぜひ立ち止まって、その様子を想像しながら眺めてみて欲しい。

復旧に向けての課題

多聞櫓は、彦根城の本丸北側の高い石垣の上に建っている。
その石垣の高さは約10m。
石垣も築城当時から残る貴重な文化財なので、それを傷つけずに足場をかけて作業する必要がある。
防御のために有利なこの高い石垣も、外壁を修復するには大きなハードルとなるようだ。

外壁は漆喰で塗り直すのだが、気温が5℃以下になると漆喰の施工はできない。
それは、乾燥が遅くなり壁への接着に不具合が起きる可能性があるためで、寒くなるこれからの季節には難しいという。
また、彦根市では今年度から天守と多聞櫓・附櫓の耐震対策を検討する委員会が立ち上げられており、耐震対策工事に加え、外壁復旧の工事をどのように組み込んで進めていくのかを検討する必要がある。
これらのことから、復旧工事は来年の春以降になりそうだ。

多聞櫓の魅力


ところで、彦根城の多聞櫓ってどこにあるの? そう思う人もいるだろう。
けれど、彦根城に行ったことがあるならば、きっと、多聞櫓を写真に収めているはずだ。

彦根城には、玄宮園という江戸時代に作られた回遊式の大名庭園がある。
大きな池を中心に岩石や木々を配置した、ドラマのロケ地になったこともあるとても優美な庭園だ。
この玄宮園は、天守をバックに美しい写真を撮ることができる、おすすめの撮影ポイントになっている。

彦根城に行ったならば、この庭園とそのうしろにそびえる天守のアングルで一度は撮影したことがあるだろう。
そう、このアングルの写真の中の、天守の手前に見える白い壁のような建物が、多聞櫓だ。
彦根城の美しい景観の中心に、多聞櫓が存在していることに気づくだろう。

いま、私たちにできること

彦根城
朝日新聞DIGITALより

彦根城多聞櫓は、台風21号の影響で美しい白壁がはがれ落ち、土壁が出てしまっている。
愛知県の犬山城では、7月の落雷によって天守の鯱が半壊した。
熊本県の熊本城は、昨年4月の地震で大きな被害を受けて以来、大規模な修復工事を行なっている。

こんなときに行ってもしかたがない。あなたはそう思うだろうか。
こんなときだからこそ、見に行ってみるというのはどうだろう。
こんなときだからこそ、見える景色があるはずだ。

たくさんの情報があふれる今、その場所に行かなくても知ることはできる。
けれど、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚といった、自分の五感で得られる情報量を超えるものはないと思うのだ。

現地に行って自分の目で見て、自分の心で考える、発信する。
自分に何ができるのかを自問自答する。
募金することも重要だが、現地に行ってお城の未来を考えることも、立派な「心の募金」ではないだろうか。

野口
こんなときだからこそ見える景色を、見てみたい。そして自分の言葉で発信していきたい。

彦根城だけでなく、台風の被害に遭われたみなさまへ、心よりお見舞い申し上げます。

この記事を書いた人

お城カタリスト