江戸時代から受け継がれ今に残る「現存天守」は、全国に12基あります。
城内で最大級の木造建築物である天守は、日本の伝統技術をいまに伝える、まさに生きた文化財。
そんな現存天守の面白さは、築城当時の城づくりの意図やセキュリティを知ることができる点です。
今回は「階段のつくり」に注目して、現存天守の魅力を知ってみましょう。
現存天守の実例をもとにご紹介します!
特徴① 上りにくくする急な勾配
階段は、上階と下階をつなぐ昇降に便利な設備ですが、お城の、とくに天守の階段は勾配がとても急で、上りにくい構造をしているという特徴があります。
姫路城(兵庫県)の場合
地上6階・地下1階の姫路城大天守には、全体で100段以上の階段が設けられています。
その中でも特に3階と5階の階段は、傾斜が50度以上の急な構造です。
さらに急勾配だけでなく、上階に行くほどに階段の幅が狭くなることにお気づきでしょうか?
これは大勢の敵兵たちが攻め込みにくいように工夫された、防御のしくみの一つです。
丸岡城(福井県)の場合
現存12天守の中で、いちばんの急勾配の階段があるお城は、北陸の丸岡城です。
「現存天守では最古の建築様式を持つ」と言われるこのお城。
2重3階の、天守にしては小ぶりな建物だからでしょうか。
階段のつくりを利用して、攻め上りにくい工夫が施されています。
丸岡城の階段の傾斜は、約65度です。
現在の階段には手すりとロープが設置されていますが、それでも、梯子を上り下りするような緊張感があります。
丸岡城の階段は、一段あたりの段差(蹴上げ・けあげ)はおよそ30cmと高く、踏み込み面が狭いのが特徴です。
建築基準法の基準では、蹴上げは23cm以下となっていますから、平均身長が157cmだったこの時代の男たちにとって、高くて急なこの構造には相当な苦戦を強いられたことでしょう。
特徴② 上階への侵入を防ぐ板戸
階段の勾配を急にするだけでなく、敵が上階へ上れないように工夫した構造も特徴的です。
階段の口に板戸を取り付けて、上階への侵入を防ぎます。
階段で使われることが多い木材は「桐」です。
桐材は、軽くて、水が染みにくいため汚れにくく、傷が付きにくい特徴があります。
階段の蹴上げや踏み込み面は、桐材のメリットを活かして作られているでしょうが、侵入を防ぐための板戸は、もっと硬くて重く丈夫な木材を利用しているはず。
素材の違いにも注目したいポイントです。
姫路城の場合
姫路城大天守の場合、跳ね上げるタイプの板戸が階段に取り付けてあります。
階段の左右に、観音開きのように開いている板がその板戸です。
板戸を下ろせば、階段の口部分の全体をおおって蓋することができるという構造です。
松江城の場合
松江城の場合には、横に引くタイプの板戸が階段に付けられています。
非常時には引き戸を引いて階段の口を閉じて、侵入を防ぐ構造です。
まとめ
階段の特徴
- 上りにくくする急な勾配
- 上階への侵入を防ぐ板戸
階段ひとつをとってみても、こんな防御のしくみがあるのかと驚くことでしょう。
このように多彩な防御の工夫を天守に仕掛けるのは、天守が最後の、最終の防御設備だからです。
もし天守が敵に落とされてしまったら、すべては終わってしまうのです。
天守の構造が複雑なのは、城主が切腹する時間を稼ぐためだとも言われています。
江戸時代という泰平の世でも、火の車の藩の財政下であっても、城主たちが先代から受け継いだ天守を補修しながら守り抜いたのは、武士の「最期の美」を貫く覚悟のためだと思います。
そのおかげで12もの現存天守を、見て、触れて、時空を超えた空気感を体感することができます。
天守の上へ上へ、ぐんぐん上って行きたくなるところですが、一度立ち止まって眺めてみましょう。
密かに施された防御のしくみが、当時の人たちの生き様を見せてくれるかのようです。
細やかな防御の工夫と、受け継がれてきた天守の美しさ。ぜひご自身の目で確かめて、五感で感じてみましょう。