天守ってよく見ると、ほかのお城の天守と似ているようでどこか違うなぁ
さすが、城子さん!よく観察してますね。
そうなのです。天守は似ているようで似ていない、唯一無二の個性的な建物。
構造や形式の違う複数の種類があるために、天守は個性的になるのです。
今回は「天守の屋根の構造」に注目して分類された、望楼型(ぼうろうがた)と層塔型(そうとうがた)の2つの種類をご紹介しましょう。
屋根の構造による分類とは
日本建築の屋根の基本形式には、4つの種類があります。
屋根の種類
- 寄棟造(よせむねづくり)
四方に屋根を葺き下ろす構造。お城では格の低い建物に使われる - 切妻造(きりづまづくり)
屋根頂部の平らな部分である大棟(おおむね)から二方向に下ろす。現在の住宅にも使われる一般的な屋根 - 入母屋造(いりもやづくり)
寄棟造と切妻造を組み合わせた構造。天守に使われる高級な形式の屋根 - 方形造(ほうぎょうづくり)
正四角錐形(せいしかくすいがた)の構造。寺院建築のみに使われる
日本建築の屋根には「格式」があります。
当時は 寄棟造<切妻造<入母屋造 とランク付けされていたそうです。
お城では、方形造を除いた、寄棟・切妻・入母屋造の3種類の屋根を利用します。
日本建築の考え方と同じように城郭建築でも、重要性や格式に合わせて建造物の屋根の形を選択していました。
天守は、お城の建造物の中で最も重要で格式が高い建物なので、最高ランクの入母屋造の屋根が使われています。
そのため、天守の種類が望楼型でも層塔型であっても、すべての天守の最上階の屋根は入母屋造です。
えっ!全部の天守の最上階が入母屋造だったら、望楼型と層塔型はどうやって見分けるの?
そうですね。望楼型と層塔型の見分け方は、最上階ではない別のある部分に注目して入母屋造の屋根があるか、ないかで種類を判断します。
それぞれの天守の構造を見ながら、天守の種類の見分け方を知りましょう。
望楼型天守
望楼型天守は、古い形式の天守です。天守のはじまりとされる安土城(滋賀県)の天守も望楼型でした。
望楼型天守とは、1階建てや2階建ての大きな入母屋造の建物の上に、1階建て〜3階建ての望楼(ぼうろう・遠くを見渡すための物見やぐらのような役割をする建物)という別の建物を載せたものです。
あら、キーワードの「入母屋造」が出てきたわ。
気づきましたか? そうです。入母屋造の屋根がある天守が「望楼型天守」です。
では、その入母屋造がどこにあるか、実際の天守を例に見てみましょう。
こちらは犬山城(愛知県)の天守です。画像の黄色の枠に囲まれた部分が入母屋造になります。
犬山城の場合、入母屋造は2階建ての構造なので、屋根は2重の構造です。
この青色の枠で囲まれた部分が、望楼です。
入母屋造の建物に、まるで建て増しをしたかのように望楼部分が載っていますね。
天守によっては、望楼部分の最上階に廻縁(まわりえん)というベランダのような設備が付いています。
このように望楼型天守は、入母屋造の建物の上に望楼を載せた構造の天守です。
望楼型と層塔型の見分け方
さて、入母屋造の2階の屋根、右端にご注目ください。大きな三角の屋根がありますね。
この形、どこかで見覚えはありませんか?
あっ!入母屋破風(いりもやはふ)ね!
そうです! 美しさの秘密は「破風」だった!天守を彩る4種の破風を知ろう」でご紹介した破風ですね。
↓詳しくはこちらの記事をご覧ください↓
入母屋造の屋根についているのが、この大きな三角の入母屋破風です。
つまり、入母屋破風がある屋根は、入母屋造ということです。
望楼型天守は入母屋造と望楼が合体した構造をしているので、その結合した部分(天守の中央部分・天守の「おなか」のあたり)の屋根に必ず入母屋破風ができます。
望楼型か層塔型かを見分けるポイントは、天守の中央部分に入母屋破風があるかどうかです。
三角の入母屋破風を目印に、天守の種類を見分けてみましょう。
層塔型天守
層塔型天守は、関ヶ原の戦い以降に誕生した新しい形式の天守です。
このタイプが登場してからは、層塔型が天守のスタンダードな形になりました。
層塔型天守とは、1階から最上階まで規則的に積み上げていく形式の天守です。
柱の長さを規格化したシンプルな構造で、木材が調達しやすく工期が短縮できるというメリットがあります。
各階の屋根は四方に均等に吹き下ろされて、まるで太った五重塔や三重塔のようにも見えます。入母屋造の構造はありません。
こちらは、昭和39年(1964)に復元された、島原城(長崎県)の天守です。
天守台いっぱいに建てられた1階部分が、上の階に行くに従って、少しずつ小さくなっているのが分かるでしょう。これが層塔型天守の特徴です。
また層塔型天守は、その構造から最上階の入母屋破風以外に破風を必要としない構造です。
つまり層塔型は、最上階以外の屋根に破風がなくても、建物として成立する構造ということです。
島原城の天守のように破風のないシンプルな構造だったなら、層塔型天守はどれも同じような印象になるかもしれません。
↓詳しくはこちらの記事をご覧ください↓
城主にとって天守は権威の象徴であり、お城の顔。
より美しく個性的で唯一無二の天守をつくるために活用したのが「破風」だったのです。
例えばこちらは、層塔型の宇和島城(愛媛県)天守です。
この天守には、千鳥破風(ちどりはふ)と唐破風(からはふ)が付いています。
もし破風がなかったら、島原城天守のコンパクト版のようなシンプルな天守になるでしょう。
取り付けられた破風は、天守の屋根の一部を加工したり、屋根本体とは独立する形で「追加」して付けられたものです。
天守本体の構造によってできる破風(入母屋破風と切妻破風)だけでなく、構造上は不要な破風(千鳥破風と唐破風)を「装飾」として活用し、オンリーワンの天守を演出するのです。
破風によって天守の装飾性を高めるこの傾向は、層塔型だけでなく望楼型天守でも同様です。
天守を見るときは、破風の配置に注目してみましょう。
現存天守をタイプ分けする
現存天守は、どちらのタイプが多いのかな?
そうですね。現存する12の天守はどんな構造なのでしょう。興味があります。
現存天守で1位と2位の高さを誇る、姫路城(兵庫県)と松本城(長野県)の天守を見てみましょう。
姫路城の場合
こちらの画像は、姫路城を三の丸から撮影したものです。
天守に破風はいくつもありますが、大型の三角形をした入母屋破風は見当たりません。
別の角度から見てみましょう。こちらは喜斎門跡(きさいもんあと)付近から撮影したものです。
望楼型天守のポイントは、中央部分(おなか)に大型の入母屋破風があることでしたね。
この角度から見ると、確かに入母屋破風が確認できます。黄色の枠部分が入母屋造です。
入母屋破風は、上の三角の屋根と下の平らな屋根の端っこが接触しているのが特徴です。
松本城の場合
続いて、松本城の天守はどちらのタイプでしょうか?
天守の中央部分に大型の破風がありますが、この破風は入母屋破風ではありません。
上の三角の屋根が下の平らな屋根の端に接していないので、これは千鳥破風です。
別の角度からも見てみましょう。こちらは天守の南側から撮影したものです。
こちらの破風も千鳥破風ですね。
松本城は、中央部に入母屋破風がないので「層塔型天守」ということになります。
現存天守のタイプ分け
- 望楼型天守
丸岡城(福井県)・犬山城(愛知県)・彦根城(滋賀県)・姫路城(兵庫県)・松江城(島根県)・高知城(高知県) - 層塔型天守
弘前城(青森県)・松本城(長野県)・備中松山城(岡山県)・丸亀城(香川県)・松山城(愛媛県)・宇和島城(愛媛県)
どちらのタイプの天守を採用するかは、天守が建てられた時期や、城主の好みに左右されるようです。
現存天守について詳しくは、別の記事でご紹介します。
まとめ
- 屋根の構造の違いから、天守は望楼型天守と層塔型天守の2つの種類に分類される
- 屋根の種類には、寄棟造・切妻造・入母屋造・方形造の4つの種類がある
- 望楼型天守とは、入母屋造の建物に望楼という物見やぐらを載せた形式の天守のこと
- 層塔型天守とは、1階から最上階まで規則的に積み上げていく形式の天守のこと
- 望楼型天守と層塔型天守の見分け方は、天守のおなか部分に入母屋破風が有るか無いか
- 望楼型天守は古い形式の天守で、層塔型天守は新しい形式の天守
いかがでしたか?
構造の違いに注目すると、似たように見えていた天守が、実は個性的で唯一無二のものだったと気づくでしょう。
天守のあるお城に行ったなら、これは「望楼型かな? 層塔型かな?」と意識して眺めてみてくださいね。
この屋根の構造による分類は、現存天守だけに当てはまるものではありません。
再建された木造の天守でも、コンクリート造りの天守でも、望楼型と層塔型が存在します。
また、天守の小型版のような「櫓(やぐら)」でも、同様に2つのタイプが存在するのです。
天守の構造が望楼型から層塔型に変わったのはなぜなのか、さらに深掘りしてみたいと思います。
では、また!