「どうしてなの?」
また、残念なニュースが飛び込んできた。
神戸製鋼所・三菱マテリアルの子会社につづき、日本の大企業の不正が明るみになった。
最高峰の技術力を持つ日本の企業が、「データの改ざん」なんていう数字のマジックに踊らされてしまうなんて……本当に残念で仕方がない。
『不正の底なし沼の広がりを本気で止めなければ、日本の製造業のブランドイメージは地に落ちる。』と記事は綴っていたけれど、そもそも、その「ブランド」はどうして生まれたのかを、もう一度思い返してみよう。
お城から日本人の技術力を考える
近世には、「天下普請(てんかぶしん)」と言われる、日本のトップが直々に発注する土木工事があった。徳川幕府が行なった天下普請では、たくさんの大名家が関わってひとつのお城を築いたにも関わらず、そのつくりは統一感があるのだから驚かされる。
大阪城の南外堀は、屏風のように折れ曲がる美しい石垣が特徴的だ。
その石垣の角ひとつひとつを別々の大名が創ったものだと知ったら、あなたはどう思うかな。
天下普請で別々の工事担当者が創り上げたのに、角部の石垣の反りや角度がピタリと一致している。この正確性・几帳面さ・技術力は半端ない。
そのことを知ると、実物を見たときの感動はぐぐっと大きくなると思うんだ。
天下普請でつくられた二条城。
その外堀をよくよく観察してみると、エリアによって石垣の表情に違いがあるのに気づく。
「打ち込み接ぎ」という共通した石垣の加工方法なのに、その加工度合いが違うのだ。
こちらは、標準的な二条城の石垣。
打ち込み接ぎは、切り出した石を打ち叩いて、石と石との隙間が少なくなるよう加工した方法で、空いた隙間は「間詰石(まづめいし)」と呼ばれる小石で埋められている。
二条城の石垣は、横に石の目がそろう「布積み」というとても美しい積み方だ。
こちらが、徹底的に加工した石垣部分。先に紹介した写真に隣接する石垣のエリアだ。
やや隙間はあるものの、間詰石を入れる必要はないくらい。
同じ「打ち込み接ぎ」でありながら、このエリアの石垣はなんと美しいのだろう!
これは担当大名の「技術力」の差ではなく「想い」の差ではないだろうかと私は思った。
誠心誠意作業して依頼された以上のものをつくる心が、そのときの日本人にはあったのだ。
にっぽん人
私は「日本人」を「にほんじん」ではなくて「にっぽんじん」と言っている。
「にっぽん人」という言葉には、その言葉の響きの中に、力強さと意思のある日本人の精神性が詰まっていると思うからだ。
サッカーの試合とか、スポーツでも「にほん」ではなく「にっぽん」って応援しますよね。
「ほ」では、応援するこの熱量が伝わらない。
「っぽ」だと、応援する心や気合が熱く込められるからかな。
「にっぽん人」「にっぽん人」「にっぽん人」
何度も繰り返しこの言葉を言ってみよう。
なんだか力が湧いてきて、なにか行動したいと思えてくる。
この言葉の響きには、日本人のアイデンティティを呼び覚ましてくれてる何かがあるようだ。
「にっぽん人」「にっぽん人」「にっぽん人」
気がついたら熱い炎が胸に灯って、感謝の気持ちでいっぱいになる。
日本に生まれてよかった。日本人でよかった。
そう思える日本をつくってくれた、これまでの日本人にありがとうを伝えたい。
そしてこれからの日本に、日本人のために、なにか誇れることがしたい。
平凡な私でさえ、そんな気持ちがムクムクと湧いてきてしまう、とても不思議な言葉だ。
にっぽんブランド
日本人にはそんな自尊心が、DNAに刻まれているのだと思う。
今できる最大限のことを、地道にコツコツ続ける。徹底的に技を磨く、鍛錬する。
そんな生真面目さと探究心が、日本の技術力を「ブランド」にのし上げたのだ。
けれどそれは、一朝一夕に評価されるような簡単なことではない。
たったひとりで成し遂げることではなく、長い年月をかけて技術を何代にも継承していく。
志を、受け継いで育ててゆく。
その中で叩き上げられた技術力の結果が「ブランド」として評価されているのだと思う。
結果や利益を追い求めるだけではない。
つくる喜びや、誰かのためにと思う心があってこその、日本の技術力なのだと思う。
にっぽんブランドは、細やかな心配りを匠の技術に込めることによって、信頼を獲得したのではないだろうか。
残念なニュースを耳にするたびに、考える。
にっぽん人の底力が試されているときなのかもしれないな……と。
どうして日本の技術力が信頼されるのかを、もう一度考えるときなのかもしれない……と。
にっぽんブランドが確立しているのは、単に技術力の問題だけではないと思うんだ。
にっぽん人への信頼感が根っこにあるから、日本の技術力も信頼してもらえるのだと思う。
その信頼感は、にっぽん人の先人たちがコツコツ努力して築き上げたもの。
未来だけでなく、過去のにっぽん人にも誇れる日本になってほしいと、切に願う。
私にできるのは、お城を通して日本と日本人の素晴らしさを伝えること。できることを、精一杯していこうと思います。