こちらでは、高橋克彦氏の『風の陣(全5巻)』(講談社文庫)をご紹介しています。
本から学んだことや感じたことを、徒然なるままに書いています。
風の陣は、[立志篇][大望篇][天命篇][風雲篇][裂心篇]の全5巻で構成されています。
天平21年(749)に陸奥国で黄金が発見されてから、宝亀11年(780)年の「宝亀の乱」までの、奈良時代後期の30年間を描いた作品です。
この作品の主人公は、道嶋嶋足(みちしまのしまたり)・物部天鈴(もののべのてんれい)・伊治鮮麻呂(これはるのあざまろ)の3人です。
嶋足が15歳、天鈴9歳、鮮麻呂は5歳のときから物語は始まります。
朝廷と陸奥守に支配された蝦夷たちの未来を明るいものにするため、歴史の荒波に揉まれながら、3人がそれぞれの場所で奮闘する物語です。
3人の主人公が、少年・青年・壮年と成長する様子とともに物語が展開してゆきます。
高橋先生の阿弖流為(アテルイ)が主人公の『火怨』を読んで感動したので、蝦夷が朝廷や都の人々にどう捉えられていたのか、蝦夷の立場はどうだったのかをもっと知りたくて読み始めました。
朝廷の築いた「城柵」の多賀城が登場しますよ。
橘奈良麻呂の乱・恵美押勝の乱や道鏡の暗躍などを経て、鮮麻呂(呰麻呂)が陸奥守を殺害する宝亀の乱に至るまでの、壮大なスケールの物語でした。
なぜ宝亀の乱を起こしたかが読者にしっかり伝わるよう、幼少期からの3人のつながりと時代背景を丁寧に描いています。
歴史的大事件のあれこれに主人公が絡んでくるのはやっぱり物語だなーと思ったり、天鈴の先手を打つ作戦がワンパターンに思えることもありましたが。
丁寧な記述のおかげで、鮮麻呂や嶋足の立場や心理状態が手に取るように理解でき、知れば知るほど感情移入して物語にのめり込んでいく。
クライマックスの宝亀の乱は、涙なしでは読めませんでした。
天鈴の調略の動きはフィクション性が高いので、エンターテイメントとしてその手法を楽しむといいのかなと思います。
蝦夷に興味はなくとも、時代の流れと朝廷の内情を理解するにはぴったりの1冊です。
高橋先生の文章は、この作品でも愛に溢れていました。
2020年5月21日 読了
高橋克彦氏の作品
風の陣(全5巻)|講談社文庫
高橋克彦氏の「東北四部作」の1つ。陸奥国に黄金が発見された天平21年(749)から宝亀の乱までの、奈良時代後期の30年間を描く。『火怨』にも登場する、伊治鮮麻呂・道嶋嶋足・物部天鈴が主人公の物語。鮮(呰)麻呂が宝亀の乱を起こすまでを描いた[裂心篇]は涙なくしては読めません。蝦夷の暮らす陸奥国のほか奈良の平城京も舞台なので、橘 奈良麻呂の乱や女帝と道鏡のスキャンダル(?)なども登場して面白い。[立志篇][大望篇][天命篇][風雲篇][裂心篇]の全5巻。詳細を見る
火怨〜北の耀星アテルイ〜(上下巻)|講談社文庫
高橋克彦氏の「東北四部作」の1つ。後述『炎立つ』の300年前、奈良時代の東北が舞台の作品。780年の宝亀の乱から802年に阿弖流為が処刑されるまでの、蝦夷の誇りを取り戻すための戦いが、壮大なスケールで描かれている。『火怨』の冒頭部分は『風の陣』の終盤部分とリンクしているので、この2冊を読み比べると鮮(呰)麻呂側の心理もわかって面白い。詳細を見る
炎立つ(全5巻)|講談社文庫
高橋克彦氏の「東北四部作」の1つ。安倍頼良が奥六郡を治めていた1049年から奥州藤原氏の興亡までの130年の歴史を描いた超大作。絡み合い繋がる蝦夷の心。阿弖流為や鮮(呰)麻呂が思い描いた「蝦夷の楽土」が奥州藤原氏の栄華によって完結する。前九年・後三年の役の真相を知る1冊にもおすすめ。源 義経や頼朝も登場します。大河ドラマの原作本。詳細を見る
天を衝く(全3巻)|講談社文庫
高橋克彦氏の「東北四部作」の1つ。舞台は『炎立つ』のラストから400年後の戦国時代が舞台。南部氏は血筋からいえば蝦夷ではないが、東北に何百年と歴史を積み重ねれば立派な蝦夷ではないか……と「蝦夷とは何か?」を問うような作品。豊臣秀吉と戦う九戸政実を描いたこの作品の中にも、鮮麻呂や阿弖流為から続く蝦夷の心が繋がっている。詳細を見る